ヨットハーゲンのガスタンク(Hjorthagens Gasklockor)

ストックホルマーの多くは、市庁舎や旧市街のような歴史的な建築物に愛着を抱いている一方、大都会でのモダンなアーバン・ライフにもひそかに憧れを抱いている。その証拠に、もしこのようなストックホルマーに会う機会があれば、彼らはしばしば、どこかの国のヒップな首都への週末旅行について話をするだろう。彼らは、自らが住む街が発展してゆくことを望んではいるが、その反面、ニューヨークのようなスカイラインがこの街に登場することなどあり得ないということをすでに知っているし、別段、ほとんどの住民がそれを望んでいるわけでもない。スカイバーのある高層ビルがいくつかと、24時間営業のコンビニがもうちょっとできれば、それ以上は望むものもなくなるだろう。

ところが近年、ストックホルム市は前述のような近代都市へ市民のニーズ(憧れ)にこたえる路線へとシフトし、“モダンなランドマークを備えたモダンな都市”といった未来像へと向かう動きが出てきた。ストックホルム・カッルバードヒュースのように、この都市に注目を集める新鮮なアイデアが数多く出されているのと同時に、ニュー・タウンの開発や古いエリアの再開発にも積極的だ。このようなモダナイズの動きや開発・再開発への積極性は、主に2つの理由からによる。一つは、オスロに新設されたオペラハウスやコペンハーゲンのコンサートホールのように、隣国では大胆な建築プロジェクトを推し進めて観光客の引っ張り合いに余念がなく、無論スウェーデンとしても足並みを揃えぬわけにはいかないこと。二つめの理由は、近年ストックホルムで徐々に増えつつある都市開発だ。今ストックホルムは、あたかも“北欧の首都、ストックホルム”を標榜し、それに向かい邁進しているかのようだ。

ストックホルム市北東部のはずれにあるヨットハーゲン(Hjorthagen)地区の再開発は、この一連の動きの中で最近スタートした興味深いプロジェクトの一つだ。ストックホルマーから「ヨッティス(Hjortis)」と呼ばれるヨットハーゲンは、1925年にガス製造所を中心に開発されたストックホルム初の郊外工場地帯だ。当時ここには労働者が多く住んでいたが、今日では住民は2000人ほどしかいない。今では多くのストックホルマーにとってこの地域は、大きなセカンドハンド・ストアの「ミーロナ(Myrorna)」に行く他、足を向けることなどほとんどない場所だ。

この再開発プロジェクトの第一段階として、ヨットハーゲンは徹底的にリフォームされ、数千人規模の居住者がここに引っ越してくることになる。中でも最も興味深いのは、このエリアでもっとも有名なランドマークである「ガースクロッコナ(Gasklockorna)」の改築だ。ガースクロッコナとは、ヨットハーゲンのガス製造所にある、5つの化石燃料保存タンクのことだ。スウェーデンの脱化石燃料政策の推進によりこの製造所は閉鎖され、タンクも使われなくなるのだ。

この再開発には、ガースクロッコナの5個のタンク中2個をリフォームすることが盛り込まれている。タイルで覆われた3つの古いタンクは文化財として現状のまま保護される予定で、鋼鉄製の2個がリフォームの対象となっている。うち1個はアートホールとして生まれ変わり、もう1個に関しては520戸のマンションを擁する地上170mもの高層ビルとして再生する予定で、これは1963年完成のテレビ塔カークネーストーネット(Kaknästornet)を上回り、ストックホルム一高いビルとなる。このプロジェクトを手掛けるのは、北京オリンピックの“鳥の巣”や東京のプラダブティック青山店を手掛け、ロンドンの古い発電所を テート・モダン美術館(Tate Modern)として再建したスイスのデュオ「ヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & de Meuron)」。彼らにとってはストックホルムでの仕事は初めてで、着工は2011年、完成は2013年の予定だ。
(Text: Gustaf Kjellin / Pictures: Oscar Properties © Herzog & de Meuron.)

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